眠れない夜は
理由は分からないけれど、夜中に目が覚めた。
肌寒さを感じて、無意識に自分の体の横にある菫の体温を引き寄せる。
竜介は朝、飯を作るのに一番早く起きるので、ドアのあるベッドの左側。
菫は当然真ん中で、俺はその右側が三人で寝る時の定位置だ。
竜介の部屋で食事をして、そのまま菫と一緒に泊まり込む時も多々ある。
一応、部屋の主である竜介のことを気遣って、主導権は優先させているつもりだ。
だから菫の横に寝ていても、竜介が腕枕をしたがるのも、抱っこしたがるのも止めることはない。
けれど何故か、目が覚めた瞬間、無性に心細くて。
菫を抱きしめて、安心したかった。
寝息をたてる竜介の腕を無理矢理に菫の身体から離す。
ううん、と唇をへの字に曲げて、まるで抗議をしているような顔をする。
「悪いな」
一応小声で謝罪を言い、菫の身体を腕に包んだ。
少し高めの体温が、自分の体に触れて。
ほっとため息をついた。
「ん…、あれ…暁人さん?」
菫がうっすら目を開けて、俺の顔を見つめてくる。
「起こした?」
「んーん。どうかしたの?」
「どうもしないけど、急に菫をぎゅっとしたくなった」
少々寝ぼけながらもくすくすと笑う菫。
「珍しいね」
竜介を起こさないよう、ひそひそと話すので、自然と顔が近づく。
「そんなことない。いつもは竜介が邪魔するだけ」
言いながら菫のまぶたにキスを落として、柔らかな髪を撫でる。
「んー…」
気持ちよさそうに、再び菫が目を閉じたので、俺もそれに倣った。
その後は、朝まで一度も目が覚めることはなかった。
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