Congratulations!
その日は、高校の入学式だったので、家に帰るのが少し遅くなった。
マンションに帰り、自分の部屋に帰る前に、隣の隣、301号室のチャイムを鳴らす。
「菫[すみれ]?おかえり、カギ開いてるよ〜」
インターホンから聞こえてきたのは、部屋の主の明るい声音。
インターホンの横には『梶』とある。
隣の302号室の表札は『ONODERA』。
僕の住む、303号室は『笠木 麗、菫』だ。
「ただいま!竜介[りゅうすけ]さん」
夜ご飯は、302号室に住む暁人[あきと]さんと僕で、竜介さんの部屋に押しかけて食べるのが決まりになっている。
だから返事をしてドアを開け、まっすぐにリビングへ向かった。
「お〜。制服いいじゃん」
キッチンで料理をしながら、竜介さんはいつもの笑顔で言う。
「似合う?」
と、僕も見せびらかすように両手を広げて新品のブレザーを着ている姿を見せた。
「似合ってる。急に大人に見えるな〜」
「もう高校生だもん。十分大人でしょ」
おろしたての制服のままキッチンに入ろうとしたら、竜介さんに止められてしまった。
「汚したら、麗[うらら]さんに怒られそうだから、今日はそっちでおとなしくしといて」
「はーい」
麗さん、というのは僕のお母さんのことだ。
ちなみに、普段は僕も麗さんと名前で呼んでいる。
「いい匂いだね」
キッチンの前をうろちょろしながら、すかさず今日のメニューを確認。
僕の好きなものばかり、作っているようだった。
「そういえば、麗さんは?」
最後の一品らしいパスタのソースを仕上げながら、竜介さん。
「電話があって、仕事に行っちゃった」
僕がため息をつきながら言うと、あらら、と苦笑いをしながらフライパンの火をとめた。
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