月見酒
頭の後ろに、固いような、柔らかいような。
不思議な、感触。
ふわふわとする体とは別に、目線だけはしっかりと、彼のあごの無精ひげを捉える。
見慣れない角度からのその陰影に手を伸ばすと、彼の目線も俺を捉えて、交わる。
「まだ、顔赤いな」
ひやりとした彼の手が、優しく俺のおでこに触れた。
「…うん」
頭を彼の膝に預けて、下から見上げる夜空の丸い光が目に焼き付いた。
少し濡れたままの黒髪越しに、淡い光を帯びた紺。
瞳を閉じて、冷たい手の感触に集中する。
「それ、気持ちいい…」
慣れない酒気にあてられて熱を持った皮膚に、溶ける感触。
特にそういう雰囲気ではなかったのに、触れられた場所とは別の位置に熱が集まってきた。
「ねぇ」
瞳を開いて、あごに伸ばした腕をするりと彼の着物の中に忍ばせる。
酒のせいにして、このまま、ここで。
この身のすべてを、彼に委ねてしまおうか。
見開かれた彼の瞳が、冴え冴えと空に満ちる燐光よりも真円に見えた。
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