マフラー

二人を隔てるものは、きっと。

距離じゃないんだと思う。




「さみしくなったら、すぐに電話してもいい?」

そう言う目の前の恋人がもしも犬だったら、耳と尻尾をしょんぼりとさせている大型犬だろうな、と思った。


都会に発つ人や見送りの為に訪れた人でごった返す駅のホームは、人いきれで不思議と暖かい。
首に巻いたマフラーを緩めて、三回と呟く。

「さみしいな、と思って三回我慢したら電話してこい」

「ええええ〜。三回も・・・?」

「そんな声出してもダメ。じゃないと毎日電話してくるだろ、お前」

涙を滲ませたせいか、吹き込んできた冷たい風のせいか。
見上げた鼻先は絵に描いたように真っ赤になっていた。

いちいち可愛く思えてしまうのは、別れの前だからだろうか。
ドラマや映画ならロマンチックに抱き合ったり、キスしたりするんだろうけど、俺にはそんな度胸はない。

まだグスグスと鼻をすすっているこいつにも、きっとない。


高い電子音が響いて、丸いフォルムが近づいてくるといよいよ見つめあって、固まってしまった。

俺もさみしいんだと素直に言えればどんなに楽だろう。
一緒に泣いて、人目も憚らず抱き合って、キスすることができたら。

「着いたら、すぐに電話するから」

「だあから、三回は我慢しろって」

「もう、三回以上我慢してるもん〜・・・」

下唇を噛んでうつむいた拍子に、涙がこぼれたのが見えた。
つられて泣いてしまわないように、勢いよくマフラーを取って白い首にグルグルに巻いてやった。

「泣くな・・・、俺、だって」

ーーさみしいんだよ、ばか。

喉の奥が詰まる。
涙声になるのが嫌で、さらに腕に力を入れた。

ぎゅうう、と首を絞めてぱっとマフラーを離す。
同時に足も、一歩後ずさり。

「今日だけは、許す。着いたら電話しろ」

頷いた笑顔を次に見れるのは、いつだろうか。



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