海に翼
日差しに灼けたアスファルトの防波堤。
車が停まるのを待ちきれずに早々と車内で着替えを済ませた恋人が、まぶしい水着姿で一足先にそこに降り立つ。
「あっつ…早く入ろうぜ」
「俺は着替えがまだなんだよ」
「もたもたするなよ。先行くぜ?」
すでに準備万端の彼は、手を顔にかざして遠くを見つめる仕草をする。
「うわぁ…すっげぇ人。やっぱこっちのが正解だな」
少し離れた浜辺では、大勢の海水浴客達の歓声があがっている。
暑い日差しに。
絡みつく砂に。
冷たい波に。
そして、夏に。
晴天の下、地元民しか知らない超穴場の遊泳スポットに来た俺達も、彼らと目的は変わらない。
そう、恋人と夏の思い出を作る為に。
「今年も焼くぞ〜」
その恋人はしかし、まだ着替え中の俺を置いて、さっさと突堤の先端へと走り出して行ってしまった。
「ひゃっほぅ!」
若々しい雄叫びを上げながら海へとダイブする、俺よりも一回り小さな背中。
それは、偶然の一瞬。
ジャンプする後ろ姿と、空とが交わって。
彼の背中に、白い雲が翼のように重なった。
弾ける飛沫の音を聞きながら、何となく。
「来年の夏には身長を抜かされているかも知れないな…」
そう、思った。
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