香水
君に、惑わされるなら本望。
いつもと同じように口付けを交わしているのに、どこかいつもと違うと感じた。
違和感が手にでも表れたのか、ふとこちらを見上げて首を傾げてくる。
「どうしたの?」
二人きりの時だけに見せるようになった、大人じみた表情に身体の奥が暴れ出すのを感じた。
「何か…いつもと違う気がして」
自分の部屋に、恋人と二人きりでいるはずなのに。
正体の分からぬ不安を振り払うように、もつれ合いながらシーツの海へダイブ。
陸の上で酸欠になっている魚のように、互いの呼吸を貪って果てた。
「泊まって行かないのか」
「明日、テストなんだ」
ベッドから抜け出して早々、服を着始めた横顔に問いかける。
「早く言えよ。送る」
「大丈夫。あんたと違って若いし」
生意気な事を言いながら、しゅっと素肌の上にシャツを滑らせた。
「ねえ、何がいつもと違ったか、教えてあげようか」
ベッドの上に上半身だけ起こした俺に、猫のように忍び寄って一言。
「香水、変えたんだ」
妖しく光る瞳に一抹の不安。
「…前の方が良かった」
「そう?俺は好きなんだけど…。あんたがそう言うなら前のに戻すよ」
素直に俺の言葉に従う子猫に別れのキスをして、その背中を見送った。
甘い夜の残り香が胸を刺す。
身も心も翻弄されるのは、もう少し先でいい。
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