イヤホン
聴こえてくるのは素敵なメロディー。
君と、僕の。
耳からの爆音に夢中になっていて、いつの間にか隣に座っていた恋人に気付きもしなかった。
不機嫌そうに口を尖らせてこちらを睨んでいる顔は、色んな意味で迫力満点だ。
コードを引っ張られて、耳から外れたイヤホンから漏れる重低音にため息を吐かれる。
「帰るよ」
「おー…」
殆ど何も入っていない鞄を抱えて、先に歩き出した背中を追う。
イヤホンは片耳にだけして、ぽつりぽつりと喋る恋人の話をきいた。
授業の話、クラスメイトの話、部活の先輩の話。
話す度、ころころと変わる表情が可愛いくて、腹のあたりがムズムズしてくる。
こいつの心と表情は直結しているんだろう。
だとしたら、俺は心と行動が直結してる。
きっちりと締められた制服のネクタイを引っ張って、廊下の物陰へと連れて行った。
「ちょっと…!何、急に」
目を丸くする恋人の両耳にイヤホンを無理やり突っ込んで、そのまま手のひらで顔を包み込むように上向かせる。
戸惑う隙も与えずに、キスをした。
重ねた唇から、重低音が響く。
音に埋もれるように、振動する唇に何度も何度も夢中で噛みついた。
その後、例の迫力満点の形相で怒られたのは言うまでもない。
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