煙草
気紛れに腕の中に飛び込んでくるくせに。
抱きしめようとすると、触れさせてはくれない。
それがあなたの悪い所。
白い煙が視界に揺れて、最果てを知る。
半ば朦朧とする意識の中で、ベッドの縁に座ってタバコを吸う横顔に手を伸ばした。
「吸う?」
その手が美しい肌に触れる前に、咎められるように、火の点いたタバコの先を向けられた。
向けられた瞳も。
タバコを持つ細い指も。
一糸も纏わぬ滑らかな肌も。
肩にかかる明るい色の髪も。
同じ人間のモノの筈なのに、何故こうも美しいのか。
不思議でたまらない。
「タバコ、吸わないんで」
ふ、と満足げに笑って喫煙を再開した横顔は、知ってるよ、とでも言いたげだ。
気安く触れてくれるな、ということなのだろう。
いつだって誘ってくるのはこの人からで、ベッドを出ればふらりとどこかへ消えてしまう。
そんな曖昧な関係を、俺はいつまで続ければいい?
「……先輩、俺」
「ダメ」
次の言葉を予想したのか、俺の唇に無理やり吸いさしの煙草をくわえさせて。
「ダメだよ、それは」
先輩は哀しげに目を伏せた。
唇を、体を、他の全てを許されても。
この想いを告げることだけは許されない。
慣れない煙草を思い切り吸い込んで、苦いばかりの煙をゆっくりと吐き出した。
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