Tシャツ
暑くて、熱くて。
溶けてしまいそう。
夏の日差しは容赦なく校庭の球児達を焼く。
声を掛け合いながら白球を追って一日を過ごし、暗くなりはじめてからは練習を終わらせた。
「先輩。タオルどうぞ」
「ああ。ありがとな」
俺の差し出したタオルで汗を拭きながら、着替えをはじめた先輩の隆々とした筋肉に見とれてしまう。
ぽうっとして突っ立ていると、着替えないのか、と笑われてしまった。
慌てて練習用のユニフォームを脱ぎ、下から出てきた自分の頼りなげな筋肉に思わず溜め息。
同じキャッチャーなのに、何故こうまでも体格が違うのか。
もう一度先輩の体を見ようと、そろりと目だけを横に向ける。
俺のじっとりと熱の籠もった視線に気づいたのか、こちらを見返し、ん?と口の端を上げる先輩に胸がときめいてしょうがない。
鼓動が早鐘のように胸を打って、きりりと痛む気がした。
きっと顔どころか、耳まで赤くなっているだろう。
先輩が、日に焼けたせいだと思ってくれればいいのだけれど。
「まだ暑いなー」
夏らしい、白いTシャツを着てスポーツドリンクのキャップを捻る先輩。
今日はもう四本目だ。そういう些細な事まで、先輩の事なら覚えている。
目玉焼きはよく焼き派とか。
スースーするガムがダメだとか。
飲み終わったペットボトルは、握力を鍛える為に潰して捨てていること。
それから、白いTシャツがよく似合うこと。
黒い肌と白いTシャツの、絶妙なコントラスト。
その背中に触れる理由がないことに歯噛みしながら、俺はくすんだ色のTシャツを着た。
夏はキライだ。
暑さと湿った空気が俺の前に横たわって。
先輩との距離を縮めるのを許してくれないから。
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