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泣かないヒトが強い、とは限らない。
どんな時でも、震えるだけの小さな肩を。
ただ、見つめているだけの俺だった。
大好きな祖母が亡くなった時。
二人して上級生とケンカして、叱られた時。
自分は女性を好きにはなれない、と両親にカミングアウトして、母さんに泣かれた時。
いつも眉を寄せ、寂しそうな目をするだけで。
俺は一度も見たことがない。
彼の、涙を。
だから、俺も泣かない男になろうと決めたのだ。
隣室から聞こえる、電話で話をする声に、ひっそりと耳を傾ける。
聞き耳なんて、みっともないと分かっているけど、気になって仕方がないから、そうせずにはいられない。
喚くような声と、静かに諭すような声。
順に聞こえて、最後には小さなため息が聞こえた。
少し時間を置いて、隣室のドアをノックする。
返事を待たずに、鈍く光るドアの取っ手を回した。
「また、ダメだったのか?」
何が、と言わずとも、彼は全て分かっている。
「うん。…難しいね」
電話を持つ手は少し、震えているようだった。
それでもやはり、その瞳に涙はない。
「ま、頑張れよ」
隣に腰を下ろして、軽く頭を叩いてやる。
「ソイツだけが男じゃないんだからさ。…兄貴が一番分かってるか」
「…ナマイキ」
顔は笑ってはいたが、心ではきっと。
泣いてもいいよ、とは言わない。
今は、まだ。
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