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わずか、一万分の一の幸福。
「こんな所に、いた…」
脱走癖のある友人を探すのは、高校生の時からの俺の役目。
日当たりは良いけれど人目にはつきにくい、そんな場所が、彼のお気に入りだ。
今日は日に当たりすぎたのだろうか、木の幹に背を預け、足を伸ばしてぼうっとしている。
端正な彼の横顔と、淡い栗色に染められた髪を、青葉の隙間から入り込んだ光が照らす。
風に、枝先が揺れる度、彼の横顔の陰影が踊って。
象られるのは、目眩がするほど美しい模様。
「また、探しにきてくれたの」
美しい横顔に、声を掛けるのを躊躇っていた俺をとらえて、彼の唇が緩やかな弧を描く。
伸ばした足の、腿のあたりで両手を組んで、手の中で何かを弄んでいるようだ。
「これ以上サボると、単位ヤバいぞ」
「うん、知ってる」
穏やかに答えた彼に、ならばなぜ、と問おうとしたとき、おもむろに影が揺れた。
「これ、探してたんだ」
「?」
差し出された『これ』に、思わず俺も手を伸ばす。
ひらり、と音もなく俺の手のひらに着地したのは、瑞々しい色をした、四枚の葉。
「四つ葉のクローバー…?」
「そう。花言葉の通りに、なってくれたらいいな、と思って」
クローバーの花言葉を聞く前に、彼はさっさと校舎に向かって歩き出してしまった。
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