orange

この恋は、実るだろうか。




買い物袋をぶら下げて、通い慣れた道を歩く。
通りから少し外れた古い民家の軒を連ねる路地を、更に奥へ。
あまり大きくはない平屋の門を、呼び鈴も鳴らさず中へ入り、玄関の引き戸を開けた。

「邪魔するぞ」

一応、一言発してから、靴を脱いで廊下の左手の襖を叩く。

「おい。生きてるか」

中から返事はない。

「入るぞ」

ぱしん、と軽い音を立て、襖を開ける。

六畳の和室の庭に面した大きな障子窓のそばに、年季の入った文机が一つ。

その前に、いや正確には下に。
和服の男が寝そべっていた。

買い物袋を鳴らしながら、傍らに立つ。

「生きてるか」

「…半分だけ」

目を閉じたまま、唇だけを動かしてふざけた事を言う。

しゃがんで、和服に似合う黒い髪を一房つまんだ。

「風呂にも入ってないんだろう」

「んー…」

肯定も否定もせず、未だ動かないまま。

はあ、とため息をつき袋から果実を一つ手にとって、鼻の近くに近づけてやった。

「ほら」

甘い柑橘の香りに、ぱちと目を開かせて。

「ありがと」

俺の手は、果実ごと細い指に包まれてしまった。



触れられて、微笑まれるとそれだけで、どんなことも厭わないと思えてしまう。


だから、恋はキライだ。




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