0センチという恐怖
「教科書忘れたから、見して」
隣の席の、愛しいあの子の何気ない言葉に、俺の心臓はその拍動を早める。
落ち着け、落ち着け。
ここではぁはぁしたら、絶対、引かれる。
「ん、いいよ」
俺の返事を聞く前に、ガガッと机を寄せてぴったりとくっつけてきた。
やばい、やばい。
今までにないほど近い、距離。
こんな嬉しいハプニングを想像していなかったわけじゃないけど。
この距離は、やばい。
始業のチャイムと共に軽く首を振って、あらぬ考えを頭の中から追い払う。
ただの、普通のクラスメイトにする反応をする。
ただの、普通のクラスメイトにっ…!
雑念を頭の中から追い払おうとする俺の努力は徒労に終わった。
ぴたりとくっつけられた、机の下の狭い空間。
机と同じに、彼のひざが俺の脚にぴたりとくっついている。
黒板を見て、硬直したまま。
一度も、右に振り向くことはできなかった。
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