エッジバイオレット
彼の指先から紡ぎ出される色は、僕の想像を容易く超える。
長い指先で、細い筆を軽く握る。
健康的に日焼けした色の、その指。
授業中だというのに、僕の視線はそんな彼の指先に釘付け。
筆の先端がパレットに広げられた何色もの絵の具のどの色に向かうのか、知りたくて知りたくて。
僕の目の前の紙は、まだほとんど白いまま。
「どうしたの?全然進んでないわね」
美術部の顧問でもある女性教師に課題の進捗状況を指摘され、僕は焦る。
「す、すみません…」
そのやり取りに、幾人かの生徒がこちらを見て、クスクスと笑った。
僕の右斜め前に座って筆を濯いでいた彼も、その左手を止めてちらりと僕の方を振り返る。
彼の表情に、特別なものは何もなかったのに。
他の誰に笑われるよりも、見られたことが恥ずかしくて、嬉しくてたまらなかった。
自分の筆先に彼をイメージした色をのせ、目の前の白に重ねていく。
けれどどんなに絵の具を重ねても、僕の目の前の色は、彼の紡ぎ出す色とはほど遠い。
結局、課題は終わらないまま授業の終わりを告げるチャイムが鳴った。
授業が終わったあともしばらく、右斜め前を見つめていた。
頭によぎるのは、極彩色と重なった、振り返る彼の横顔。
彼の紡ぎ出すすべてに、心まで彩られて僕は。
甘く、苦い。
恋を、している。
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