ロストラバー
失ってしまった、今だからこそ気づく。
君が、どんなに僕に恋していたか。
僕が、どれだけ君を愛していたか。
離れる理由は、幾つかあった。
例えば年齢。
君はまだ若く、学生で、僕は中年といえる。
人生においての基本的なベクトルが明らかに違っていた。
例えば立場。
僕は一応、教育者で、君は紛れもなく教え子。
誰に憚ることなく、君を抱きしめてあげることはできなかった。
例えば性別。
君も僕も、男だった。
マイノリティでアブノーマル。
恋愛関係にある、と公表することなど到底不可能。
他にも、幾つか。
ともかく。
僕と君の恋は、道ならぬものだった。
けれど。
失ってしまった、今だからこそ気づく。
離れずにいる理由が、一つだけあった。
君が、僕に恋していて。
僕が、君を愛していた。
きっと、それだけで良かったのだろう。
それに気づけず、愚かな僕は君を失ってしまった。
今はまだ、この頬に流れる涙を拭う術もない。
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