バタフライエフェクト
君を感じる瞬間、僕の体温は二度、上昇する。
「あっちぃ!」
暑さの増す、七月の中旬。
下校時間、気怠い夏の気配が立ち込めている通学路。
蝉時雨に耳を聾されながら、隣を歩く君の一言も、一仕草も逃すまいと、全神経を傾ける。
暑い、暑いとのたまいながら、制服の白いシャツをはためかせる君。
その影響で、風がふわりと動いた。
僅かに震えた空気の先、僕の嗅覚を君の汗の香りがくすぐる。
「コンビニ寄って、アイスでも買って帰ろうか」
ごく自然に聞こえるように提案して、君を見つめた。
「賛成!」
飛びきりの笑顔で、鼻歌を歌いながら先んずる君。
小走りになったその背中を食い入るように見つめながら、僕はあとを追った。
君の全ては、地球の裏側の小さな蝶の羽ばたきをも、軽く凌駕する。
僕の心を、滅茶苦茶に荒らして。
けれど、それを心地良いと感じてしまう僕。
「はーやーくー。アイスが溶けちゃうだろー」
歩みの遅い僕に、まだ買ってもいないアイスの溶け具合を気にしながら、君が振り向く。
「…うん」
上昇した体温に吹き出す汗を拭いながら、僕も足を速めた。
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