愛を知ったライオン
北校舎の屋上へ続く階段は、本来なら立ち入り禁止だ。
けれど、俺は。
ここで、彼を待っている。
今日は、来るだろうか?
あまり素行のよろしくない彼は、学校をサボることもよくある。
学校に来ても、授業を受けずに帰ったり、バイトがあるからと勝手気ままに早引きをしたり。
彼が、俺に会いにくる理由はない。
例え俺が、毎週水曜日の放課後、必ずこの場所にいると知っていても。
もし、彼が今日も俺に会いに来たとしたら、その時は。
期待しても、いいだろうか?
遠くに部活動に励む学生達の声をききながら、きゅっと廊下の鳴る音に耳をすませた。
「あ、やっぱいたー」
癖のある、いたずらっ子のような笑みを浮かべて、彼が階段を昇ってくる。
俺の目線はその髪に釘づけになった。
「…その髪、どうしたんだ?」
「ん?染めた。誰かさんが不良みたいだって言うから」
金髪は彼のトレードマークだったのに。
先週の水曜日までは、日差しの透けるような、鮮やかな金の色をしていた。
「黒髪も悪くないっしょ?」
前髪を軽くつまみながら、例の笑顔で俺を見つめてくる彼。
金髪も似合っていたのに、と思ってしまった俺は、教師失格だろうか。
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