ホワイトメモリー
ベッドを囲う、真っ白なカーテン。
頼りなげな布の一枚のはずなのに、それがあるだけで。
何もかも、許された気分になる。
遠くに聞こえる高いチャイムの音に、うっすらと目を開けて、見るともなしに白い天井を見る。
「大丈夫?」
にゅうっと黒い影が、横たわる俺の右側から現れて、一瞬どきりとするが、それが自分の恋人だと分かるとたちまち安堵に変わった。
「んー…、っと」
薄手の毛布の中で軽く伸びをして、体の具合を確認。
「…んーっ!大丈夫。ただの寝不足だし」
「良かった。大丈夫なら、一緒に帰ろ。先生は会議だから、帰るときは鍵かけて、職員室に届けに来て、ってさ」
緩やかに波打つカーテンを背に、黒く円らな瞳を細めて笑う。
「…先生、いないのか」
「うん。鍵、預かったよ」
ほら、と緑のプレート付きの鍵をくるりと玩ぶ、右手の人差し指に、自分の手を添えた。
「保健室、ってさ」
「うん?」
「…何か、イカガワシイことしたくならねぇ?」
俺の放った一言に反応して、一瞬にして変わる、添えられた手を見つめる黒い色。
「!…っ、ばかっ」
何言ってるの、と俺を窘める恋人の頬はしかし、赤く染まっている。
添えた手で、そのまま右腕を勢いよく引き寄せた。
人差し指から離れた鍵が床に落ちるのと、俺の唇と。
どちらが早かっただろうか。
身構えられてもお構いなしに、柔らかな唇にキスを落として。
「イカガワシイこと、しよーぜ?」
返事は待たず、深く口づけた。
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