花冷え
雪のように吹雪く花びらが、儚く美しい。
硬い蕾から綻んだばかりの花を、容赦なく吹きつける風。
風は、花を飛ばし、散らす。
「見て、見て、すごくキレイ…」
上向きながら前を歩く恋人は、その光景に夢中の様だ。
足取りが、少し危なかしくもつれている。
その足にも
なびく髪にも
広げた手にも
上向く頬にも
小さな背中にも
淡い花びらが吹きつけ、まとわりつく。
風と、花とで霞むその姿がかき消されてしまいそうになって。
後ろから、手を伸ばした。
絶えず、風はそこに在る全てのものを寒さに晒す。
寒さから守るように、その小さな体を花びらごと抱き締めた。
散る花が、ふたりを包んだ。
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