COFFEE
部屋中に香ばしい匂いが広がって、急激に喉が渇いていくのが分かる。
温めたカップに褐色の液体を注ぐ彼の後ろ姿は、妙に可愛らしい。
縦になってしまっている、白いエプロンの結び目も。
肩紐のずり落ちそうな、華奢な背中も。
少しカールした、色素の薄い髪も。
そんな姿に誘われて、ゆっくりと近付く。
後ろから彼の腰に腕をまわし、滑らかな首筋に唇を落とす。
クスリ、と微笑む声がした。
「砂糖とミルクはいつも通り?」
そして、何事もないように問いかけられる。
「うん…いっぱい入れて」
悔しいから、彼の頭に唇を押し当てて囁いた。
少しだけくすぐったそうに動いて、俺のカップに砂糖とミルクを入れる。
自分のカップには何も入れずに、ふたつのカップとお菓子をトレイに乗せた。
「…何でそんな苦いの飲めんの?」
そう聞いても、いつも答えは同じ。
「大人だから」
そう言う彼の、少し上がった唇の端に余裕を感じる。
いつもは俺の方が余裕あるんだけどなぁ。
こればっかりは、ダメだ。
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