CIDER

僕の手にぴったりなサイズのグラスを右手に掲げて、その向こうを覗き見る。

無色透明な液体がなみなみと注がれたグラスの向こうは




冷たく、歪む。




そんな、歪んだ世界の中にも確かに彼は存在していた。

向かいのソファに座った彼の指が本のページをめくって動くたび、グラスの中で光が踊る。

「…飲まないのか」

グラスの内側をびっしりと埋めつくした小さな泡がはじける微かな音と、その間をぬって優しく響く彼の声。

「飲む、よ」

その声に促されて、グラスの縁に口をつける。




口の中に広がる

透明なそれは

甘く、痺れる。




まるで、彼の愛撫のように。



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