GREEN TEA
摘んだばかりの瑞々しい葉を一枚てのひらに乗せて、じぃっと眺める。
艶やかな葉の表面は初夏の日差しを浴びて光り、指でなぞればつるりとした滑らかな感触を伝えてくれる。
鼻の高さまで掲げて、深く息を吸い込む。
微かに、清らかな匂いが鼻孔をくすぐる。
舌先にその葉を落として、軽く前歯ですり潰した。
じわり、と広がる爽やかな薫り。
目を閉じて、ゆるやかな風の音を聴きながら、その清涼な大気を体全体に染み込ませてゆく。
「…………おい」
「わ!!びっくりしたぁ…」
突然後ろから声をかけられて、座っていた石から腰が浮いてしまった。
後ろにいたのは、茶摘みの作業姿に身を包んだひとりの青年。
「…………」
「…どうしたの?……座れば?」
黙ったまま後方五メートルの位置から動こうとしない彼に、隣を指して手招きをした。
「…………」
「………………………」
隣に腰かけても、無言のままの彼に焦れて口を開こうとしたその時。
やはり無言で差し出された、小さな水筒。
「……飲んで、いいの?」
彼の返事を聞く前に、急いでカップに中の液体を注いだ。
喉を滑り落ちてゆくその新緑は、先ほどの葉とは比べ物にならないくらい芳しく、甘い。
「おいしい」
感嘆のため息をつきながら、彼の方に顔を向ける。
彼は、僕の方を見ない。
「そうか、良かった…」
前を向いたまま、息をついて。
「…おまえに、一番に飲んで欲しかったんだ」
そう言った彼の頬は、少し赤く染まっていた。
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