WINE
素敵な夜景の見える、高級ホテルの最上階のレストラン。
ちらちら揺れるキャンドルの灯りに、しみ一つない真っ白なテーブルクロス。
白磁の食器に、煌めく銀のナイフとフォーク。
そんなドラマチックな雰囲気なのに、僕らは全然ドラマチックなんかじゃない。
お互い、不慣れなスーツに身を包んで着飾ってはみたけれど。
何だか、場違い過ぎて失笑ものだ。
慣れない事は、するものじゃない。
正面に座った彼の手が、グラスに注がれたルビー色の液体を揺らす。
その仕草から、苛々が伝わってくる。
ゆら、ゆら。
ゆら、ゆら。
何も言えずに、揺れるルビー色を見つめる。
ゆら、ゆら、ゆらり。
一度それは、大きく揺れて。
見上げる前に、彼は席をたってしまった。
「…部屋、行こう」
部屋に行ってベッドに入れば、少しはドラマチックな夜になるだろうか?
立ち上がって、彼の背中を追いかける。
振り返ると、グラスのルビー色はまだ少しだけ揺れていた。
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