LEMONADE
カラン、カラン…。
ドアベルの音が店内にこだまして、いつものように彼は現れる。
「いらっしゃい」
その姿を見ただけで、綻んでしまう自分の顔。
そんな、些細な事に照れ臭さを感じながら彼を迎えた。
「あっちぃ〜」
そう呟いて制服のネクタイを緩め、指定席に腰をかける。
ドアを背にして、L字カウンターの一番右。
「随分、汗かいてるね」
クスクス笑いながらタオルを取り出して、カウンター越しに額の汗を拭ってやった。
くすぐったそうに、目を細めて、
「店の中は涼しいからいいよな!!うらやましい」
そう言いながら、口を尖らせる彼。
「羨ましい、って言われてもねぇ……何か、冷たいものでも飲む?」
話題を逸らせてタオルを彼の手に渡し、グラスの準備に取りかかる。
彼が何をご所望か、本当は分かっているけれど。
「いつもの!!」
そう言いながら、満面の笑みを浮かべる彼が見たいから。
分かっていても、聞かずにはいられない。
そんな、初夏の夕暮れ。
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