LEMONADE

カラン、カラン…。

ドアベルの音が店内にこだまして、いつものように彼は現れる。

「いらっしゃい」

その姿を見ただけで、綻んでしまう自分の顔。

そんな、些細な事に照れ臭さを感じながら彼を迎えた。

「あっちぃ〜」

そう呟いて制服のネクタイを緩め、指定席に腰をかける。

ドアを背にして、L字カウンターの一番右。

「随分、汗かいてるね」

クスクス笑いながらタオルを取り出して、カウンター越しに額の汗を拭ってやった。

くすぐったそうに、目を細めて、

「店の中は涼しいからいいよな!!うらやましい」

そう言いながら、口を尖らせる彼。

「羨ましい、って言われてもねぇ……何か、冷たいものでも飲む?」

話題を逸らせてタオルを彼の手に渡し、グラスの準備に取りかかる。



彼が何をご所望か、本当は分かっているけれど。

「いつもの!!」

そう言いながら、満面の笑みを浮かべる彼が見たいから。

分かっていても、聞かずにはいられない。

そんな、初夏の夕暮れ。



←[*] 55/75 [#]→

MAIN
BLコンテスト・グランプリ作品
「見えない臓器の名前は」
- ナノ -