BRANDY

時計を見ると、もう十二時をまわってしまっていた。

日付は二月十五日。

絶対早く帰って来い、と言われていたのにいつもより遅くなってしまった。

先に寝ているか、怒って帰ってしまったかもしれないな、と思いながら玄関のドアを開ける。

しんと静まり帰った室内に足を踏み入れた。

靴はあったから、先に寝てしまったのだろう。

音をたてないように、バッグを置き、コートを脱ぐ。

コートを椅子にかけようとして、テーブルの上にメモをみつけた。

メモを抑えているおもりをどけて、手に取る。

『バーカ、バーカ
チョコは俺が食ってやった
コレは、お前にやる』

ふっ、と吹き出しそうになって口を抑えた。

『コレ』は何だろう?

と思ったら、メモを抑えていたおもりだった。


袋に入った琥珀色のミニボトル。


バレンタイン用だろうか、ピンクのリボンがついていた。




寝室に入って、ベッドを覗き込む。
枕を抱いて、丸まって眠る彼がいた。

「ごめんな」

小さな声で謝って、軽く頭を撫でる。

彼は少し身じろいで、またすやすやと寝息をたてはじめた。



週末にでも、どこかへ連れていってやろうか。
それともホワイトデーのお返しを奮発しようか。

シャワーを浴びたいけれど、彼の眠るベッドからは離れがたい。


しばらく、その寝顔を眺めていた。



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