灯飾り
あの人の右耳に光る石は燃える火のよう。
その輝きは、俺の胸にも炎を灯す。
短く切られた髪は洒落た色に染められていて、それだけで俺より遥かに大人なのだと感じさせられる。
兄の部屋によく遊びにくるその人の、横顔を見る度に俺の心はどこかそわそわとして落ち着かない。
その様子を兄に指摘され、からかわれるのは嫌だけれど、それでも。
同じ空間にいたい、と思ってしまう。
この気持ちは、何なのだろう?
「ホントにいいのか?」
「いいよ」
「痛いぞ?」
「冷やしたし、平気。高校に受かったら、開けてくれるって言っただろ」
「言ったけど…バレたら推薦取り消されるかもだぞ?」
「そしたら一般入試で入り直す」
「…頭良いのか、バカなのか分からないな、お前」
笑いながら、その人は俺の耳に手を伸ばす。
氷で冷やされ、感覚のないはずの右耳にその指先が触れた瞬間、気づいてしまった。
自分の、想いに。
右耳に感じる僅かな痺れと、胸のあたりに感じる熱いものに蓋をするよう、固く、固く目を閉じた。
「終わったぞ」
低い声に目を開けて、ゆっくりと鏡を見る。
小さな鏡に映ったのは、右耳に光る赤い石と銀の環。
そして、
隣に座るこの人と揃いの飾りに、どうしようもなく胸をときめかせている自分だった。
←[*] 72/75 [#]→
MAIN