銀聖夜
待ち合わせ場所は街中の大きなツリーの下。
午後八時ちょうどに煌びやかな飾りで彩られた樅の木の下に着いたが、そこに俺と待ち合わせをした人物の人影はなかった。
時間より少し早めに来て、俺が姿を表すと優しく微笑みかけてくれるのが彼の常なのに。
仕事が長引いているのだろうか?
仕方なく、ツリーの下に立って彼を待つ。
「寒っ…」
聖夜の空は低く淀んで、今にも凍えた涙が零れ落ちそうだ。
両手をポケットに突っ込んで、肩をすぼめてなるべく寒さを感じないようにしていると、周囲から歓声が上がった。
声につられて顔をあげると、銀に光る結晶がひらひらと舞っている。
鈍い色をした空から、雪が舞いだしたのだ。
けれど、俺の瞳は舞い散る輝きよりも目の前に現れた人影に釘付けになった。
イルミネーションをバックに、俺に微笑みかける彼の姿がキレイで。
愛おしくて、たまらなくなった。
「ごめん。遅れた」
「ん、いいよ」
いつもなら、こんな風に湧き出した感情を言葉にすることも、態度に表すこともできない。
けれど。
今日は、特別な日だから。
ポケットから冷たくなった右手を出し、彼の手をとる。
右手が優しく握り返されるのを感じながら二人並んで、降り始めたばかりの雪に濡れる舗道を歩いた。
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