紅の粧
ひらり、ひらりと。
手中に舞い込む、鮮やかな紅。
サクサクと足音を立てながら歩き慣れない険しい道のりを登る。
幼い恋人は俺のすぐ後ろで息をあげていた。
「もう少しだから、頑張れ」
励ましの言葉とともに右手を差し出すと、汗ばんだ顔が柔らかい表情になる。
ふうっ、と大きくため息をついて俺の手を握り返す手も少し汗ばみ、血色の良い色に染まっている。
「ん…!頑張る」
気合いを入れ直した表情に俺も励まされて、山頂までの残りの道のりを足早に登った。
「わあ!すごい。きれいだねぇ…」
頂きから見下ろす山肌は、美しい秋の粧い。
感激しながらその景色を見下ろす横顔も、ほんのりと色づいて明るい。
「…ああ、キレイだ」
呟く俺の視線は目の前の絶景ではなく、その横顔に釘付けだった。
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