13
冷めたカップを取り上げると、ゴローさんは不思議そうに首を傾げた。
いつものように、薄茶色のクセ毛がふわりと揺れる。
「ミツくん、僕は…」
自分の置いたカップの横にゴローさんの手から取り上げたものを置いて、言葉の続きを遮った。
「ゴローさん、抱きしめてもいいですか」
唐突な俺の言葉に、ゴローさんは困っている。
また思ったままを口にして、馬鹿だと思われただろうか。
返事がないので、言い方を変えた。
「抱きしめます。嫌なら逃げて下さい」
嫌ではない、と言っていたのにこれは卑怯だ。
でも、止まらない。
ゴローさんの腕を掴んで、制服に身を包んだゴローさんの身体を引き寄せる。
同時に俺からも距離を縮めて、腕を回した。
頬を、甘い香りの髪がくすぐる。
じわりと胸に広がる高揚。
今は、同じ思いじゃなくてもいい。
「ゴローさん。俺と、付き合って下さい」
「…言ったでしょ。僕は、ミツくんと同じ気持ちを返してあげることはできない」
「それで、いいです」
「でも」
「俺が、ゴローさんを好きなんです。ゴローさんは何も返そうと思わなくていい」
首を横に振ることのできないゴローさんが、腕の中で戸惑っているのが分かる。
「受け入れてくれるだけで、いいです…」
――俺が、ゴローさんに思い出させて見せる。
恋、を。
←[*] 34/43 [#]→
目次へ
MAIN