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ゴローさんのキッチンの片付けが終わるまで、ロッカー室で待つことにした。
手伝うと言ったが、先に着替えるように促されたので、大人しくそれに従った。
ゴローさんにも、気持ちの整理をする、一呼吸が必要だったのかもしれない。
着替えて荷物を纏めると、俺の心は不思議と落ち着いていたので、そう思った。
バッグを持って、ロッカー室のドアを開けると、香ばしいコーヒーの香りが漂ってくる。
不思議に思って足を早めると、やはりゴローさんがコーヒーを淹れていた。
俺に気付いて、はにかむように笑う。
「ちょうど呼びに行こうと思ってた」
カップの一方には砂糖を2つとミルクを1つ入れて、もう片方にはミルクを1つ。
「ミツくんは、砂糖なしで良かったよね」
ゴローさんがスプーンで混ぜると、くるくると白い螺旋をを描いて、ミルクは溶けた。
ミルクや砂糖の数まで覚えていてもらえたことが嬉しい。
お礼を行ってカップを受け取り、ゴローさんが出してくれた折りたたみのイスに座る。
立ったまま、銀色の作業台にもたれて両手でカップを包むゴローさん。
「何から話せばいいかな…」
目線を落としてカップの中の、キャラメル色になったコーヒーを見ているのか。
それとも、別の何かを見ているのか。
コーヒーカップの中の小さな世界を見つめたまま、ゴローさんはぽつりぽつりと、話をはじめた。
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