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俺の無骨な手とは違って、細く白い、繊細なゴローさんの指。
思い切り握り締めれば折れてしまいそうなそれに、もう片方の自分の手を添えて、優しく包む。
いつも、ゴローさんがケーキを作る時にしているように。
ほんのりと暖かいゴローさんの指先から、甘い香りが漂ってこないのが不思議だ。
「俺は、」
ごちゃごちゃ考えても仕方がないので、思ったままを口にする。
それしか、俺にできることはない。
「ゴローさんの、笑った顔が好きです」
春の日差しのような、柔らかな笑顔が。
「だから、ゴローさんに嫌な思いをして欲しくかないし、曇った顔をさせたくない」
――どうすれば、笑ってくれますか?
懇願するように見つめると、ゴローさんは小さく口を開いた。
「ありがとう…」
言葉の終わりに少しだけ微笑んで、ゴローさんは俺の手を握り返してくる。
「ミツくん。少し話をしてもいい?」
意を決したように、俺を真っ直ぐ見上げるゴローさんの瞳の強い色。
手の甲に食い込んだ白い指先の力も、思いの外弱くはなかった。
「ミツくんへの、応えになるか分からない…。けど、僕の話を、きいて欲しいんだ」
言葉を選びながら、一言一言を噛み締めるようにゴローさんは言った。
もちろん、俺に断る理由はない。
「聞きます。ゴローさんの話なら、何でも」
頷くと、ゴローさんは俺の大好きな柔らかな笑顔を見せてくれた。
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