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片付けを終えて、ゴローさんに売上金の入った袋を渡す。
「お疲れさま。僕は少し残るから、ミツくん先に帰ってね」
目を合わせて、笑ってはくれたがその笑顔にも、いつもと違って元気はない。
トールさんに言われたことを気にしているのだろう。
黙々とキッチン内の片付けを続けて、もう俺の方を見ようとはしなかった。
「ゴローさん」
居ても立ってもいられず、大きめな声でゴローさんを呼ぶ。
何を言おうか決めてそうしたわけではなかった。
けれど、不安そうに顔を上げたゴローさんの表情を見て自然と続く言葉。
「トールさんの言ったことは、気にしないでください」
今度は困ったように首を傾げる。
「…というのはムリかもしれませんけど、俺は――」
俺のことで、ゴローさんの表情が曇ってしまうのは嫌だ。
ゴローさんには、明日もいつものような笑顔でいて欲しい。
どんな言葉なら、ゴローさんに伝わるだろう。
自分の不器用さが恨めしかった。
言いたいことは決まっているのに、唇がキャラメルにでもくっつけられたように動かない。
言葉にするのは得意じゃない。
もどかしい気持ちのまま、一歩歩んで、距離を縮めた。
沈黙した俺に、不思議そうな顔をするゴローさん。
いつかのようにその手を取ると驚いてはいたが、俺の手を拒否することはなかった。
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