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気まずい沈黙を破ったのは、トールさんだった。
「…なら、勝手にすれば」
手元にあったプラスチックのコインカウンターを手にとって、ゴローさんを背に庇う俺の胸に、勢い良く押しつけてくる。
「…っ!」
「もう、知らないから」
鋭い目で俺を睨んで、そう言ったかと思うと、ロッカー室の方へ姿を消した。
「…ゴローさん、」
しばらく呆然としていたが、我に返って振り返る。
先ほどよりは、幾分緊張の解けた顔をしているゴローさん。
そろそろとその小さな肩に、手を伸ばした。
ぴくり、と体を震わせて、俺を見つめ返してくるゴローさんの瞳。
「大丈夫ですか?」
「…うん。大丈夫」
何か言いたげに揺れる、チョコレート色。
気になって、俺が先を促す前にゴローさんが口を開く。
「片付け、しようか」
「…ハイ」
二人で黙々と閉店作業の続きをした。
途中、裏口からトールさんが帰る音が聞こえたが、俺もゴローさんも何も言わなかった。
――トールさんは何であんなことを言ったんだろう?
ゴローさんにイライラしているだとか、俺のこと騙されてるだとか。
そんな風に思っているなんて感じたこともなかった。
隠していたんだろうか?
考えれば考えるほど、トールさんが放った言葉が信じられない。
――それとも、わざと?
そう考えるのが、一番自然な気がした。
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