2-2.5
「カワイイわね」
酔っ払い、カウンターに突っ伏して寝息をたてるミツの黒い髪を、細い指が撫でる。
「アンタ、羨ましいんでしょう」
ミツの寝顔を見つめたまま、赤い口紅も艶やかに、チョウコさんは微笑う。
「何のコト?」
意味が分からない、というフリをして、俺は無理やり口の端を上げた。
「告白して、ちゃんとした答えはもらえなくて。それでも、逃げない、諦めない、後戻りしない、って言い切れるこの子が」
違うわね、と彼女は自嘲する。
「そんなにも想われてる、ゴローくんが、羨ましいのよ。…よく、分かるわ」
ミツの黒髪を人差し指にくるくると巻き付けて、弾くようにそれを解いた。
彼らの言葉を。
彼らの想いを。
本当の意味で、理解することはできるのだろうか。
こんな、俺に。
「当分起きそうもないし、もう少し飲もうか?」
カウンターの中に入ってきて、ウイスキーのボトルを手にするチョウコさん。
「そうだね…」
グラスを二つ、並べて。
「でも一杯だけ。ミツを、連れて帰らなきゃ」
音を立ててその中に落ちた氷に、一瞬にして霜がつくのを見つめた。
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