「俺は店に行くけど、ミツ、学校は?」

トールさんが冷蔵庫から出してきたのであろう、水のペットボトルを渡してくれる。

服を着て時計を確かめると、すでに一限目は始まっている時間だった。

「…二限から行きます」

「やっぱり間に合わなかったかー。ごめん。もっと早く起こしたかったんだけど、俺も眠くてさ」

酒に酔って他人の部屋に上がり込む、なんて。
はじめての経験だ。
そわそわとベッドの枕の位置を直し、毛布を畳もうと手に取った。

「二日酔いは?」

「大丈夫です。…多分」

「気持ち悪かったら時間までいて、ここから学校行ってもいーよ。鍵はバイトの時に持って来て」

他人が部屋にいる状況に慣れているのか、トールさんは器用に髪を束ねながら事も無げに言う。

「シャワーも勝手に使っていーから」

一度家に戻ります、と俺が告げる前に。

「じゃーねー」

トールさんはさっさと出て行ってしまった。

俺の手に、鍵を残して。



他人の部屋の鍵を預かるのも、主のいない部屋で過ごすのも。

ましてや、シャワーを借りるなど、俺にはハードルが高すぎた。


あんな風に、飄々としていられるのは、経験値の差だろうか。

それとも、性格の違い?



どちらにしろ、落ち着けない俺は、トールさんが出て行ったすぐあとに、部屋を出た。



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