『カワイイわね。…アンタ、羨ましいんでしょう?』

笑みを湛えた赤い口元と、落ち着いたメゾソプラノの声。

意味は理解できなかったが、そう問いかけられたトールさんが何と答えたのかは気になった。




「ミツ。いい加減、起きてくんない?」

聞き慣れたトールさんの声を目覚ましに、目を開けた。

「あれ…。俺…?」

起き上がって霞んだ目を周囲にを向けると、そこは見慣れない部屋だった。

シンプルなインテリアだが、家具の中にちらほら混じるポップな色。

ベッドサイドに座るトールさんが抱えているクッションも、俺の部屋には到底似合いそうもない明るい色だ。

「…ここ、どこですか?」

「どー見ても、俺の部屋でしょ」

宇宙人の家に見える?とトールさんは笑う。

「ふらっふらだったから、店が終わったあと、連れて帰ってきた。ミツの家知らなかったし」

昨夜の事を思い出そうとして、カウンターの中で笑うトールさんとチョウコさんの姿が思い浮かぶ。

「すみませんでした…」

迷惑を掛けてしまったんだろうな、と頭を下げたが、トールさんは気にもしていないようだ。

「や。俺が飲ませすぎたし。先に言っとくけど、何もしてないからなー」

抱えていたクッションをこちらに投げて、トールさんはキッチンへ。

俺はクッションをキャッチして、はたと自分の体を見つめた。

裸、だった。

「え…!?」

慌てて毛布をめくると、下着はしっかりと身につけている。

――良かった。
いや、良い、のか?

「汗かいたり、汚れたりしたら替えがないから、脱がせただけ。俺のじゃサイズ合わないだろうし?」

ホントに何もしてないよ、とからかうように笑うトールさんを横目に、ベッドサイドに畳まれていた服を着た。



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