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ゴローさんから、告白に対する返事ともいえない返事をきき、俺の新たな決意を表明してから数日が経った。
「ミツもバカだねえ…。もっと押せば良かったのに」
例によって、変化を感じたトールさんは奢るから、と俺を夜の街に連れ出した。
極彩色のネオンの煌めく夜の街。
トールさんの働く店「papillon(パピヨン)」は意外にもひっそりとした通りにある。
落ち着いた色のバーカウンターの端に座らされ、これでもかと酒を振る舞われて、頭がふらふらしている。
閉店間際の店内には、トールさんと、店のオーナーのチョウコさん、そして酔っ払いの俺のみ。
カウンター内の片付けをしながら、トールさんは続ける。
「キスのひとつでもしてれば、ゴローちゃんだって靡いたかもしんないのにー」
ゴローさんとのやり取りをあらかた聞き出されて、今は説教(?)をされている所だ。
靡く、という言葉に少しムッとして、俺は反論する。
「ゴローさんは、キスしたらコロッと靡くような、そんな人じゃありまへん」
――しまった。
アルコールのせいで、呂律が回らない。
カウンターの中、隅に置かれた椅子に座って、グラスを拭いていたチョウコさんが、声もなく微笑う。
「ふ。ごめんミツ。飲ませすぎた。水飲みな。ホラ」
呆れたように笑って、冷たい水のグラスを差し出してくれるトールさん。
「…。俺、は」
グラスを受け取り、その中身を飲み干して。
「俺は、逃げたくないんです。それに、」
代わりに、体の内に溜まっていた感情を吐き出した。
「後戻りはできないんです!」
叫んで、その後のことはもう覚えていない。
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