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自分が、自分でなくなってしまったみたいに。
ゴローさんの一挙一動に心が踊る。
その『赤』は解放。
きっと、新しい自分への。
噛み締めた下唇をゆっくりと歯列から放して、ゴローさんは意を決したように口を開いた。
やはり、目線は合わないままだ。
「…ミツくんが、僕のことをそんな風に思ってくれてるなんて、考えたこともなかったから、すごく、驚いた」
「俺のこと、イヤではないんですね?」
「イヤじゃないよ。仕事だって、学校だって、頑張ってるし、すごく良い子だと思ってる」
「気持ち悪くは?」
「それも、思わない。オーナーとチオウくんのことだって、僕はすごく素敵だな、と思ってるし」
「じゃあ、俺、」
下を向くゴローさんが、体の横でぎゅっと握りしめた拳を手に取る。
驚いたように、見開かれる瞳は、あの告白の日と同じ。
「頑張ります。ゴローさんに、そういう意味で好きになってもらえるように」
強気な笑顔で、手に取ったゴローさんの手の甲に口づけようとしたが、勢いよく振り払われてしまった。
「〜、っ…急に、そういうのは、ダメ!」
慌てて両手を後ろに隠すゴローさんの表情は、とても可愛らしかった。
焦ったような、恥じらうような。
そして、すでに俺は。
ゴローさんのジャムの色に染まった耳が、拒絶を表しているわけではないことを、知っている。
ゴローさんのことよりも、自分自身のことの方がよく知らなかったのかもしれない。
恋に、こんなに情熱的になれるなんて。
新しい俺で、明日からまた。
新しいゴローさんを思おう、と。
ひっそりと心に誓う。
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