21

自分が、自分でなくなってしまったみたいに。
ゴローさんの一挙一動に心が踊る。


その『赤』は解放。
きっと、新しい自分への。





噛み締めた下唇をゆっくりと歯列から放して、ゴローさんは意を決したように口を開いた。
やはり、目線は合わないままだ。

「…ミツくんが、僕のことをそんな風に思ってくれてるなんて、考えたこともなかったから、すごく、驚いた」

「俺のこと、イヤではないんですね?」

「イヤじゃないよ。仕事だって、学校だって、頑張ってるし、すごく良い子だと思ってる」

「気持ち悪くは?」

「それも、思わない。オーナーとチオウくんのことだって、僕はすごく素敵だな、と思ってるし」

「じゃあ、俺、」

下を向くゴローさんが、体の横でぎゅっと握りしめた拳を手に取る。

驚いたように、見開かれる瞳は、あの告白の日と同じ。

「頑張ります。ゴローさんに、そういう意味で好きになってもらえるように」

強気な笑顔で、手に取ったゴローさんの手の甲に口づけようとしたが、勢いよく振り払われてしまった。

「〜、っ…急に、そういうのは、ダメ!」

慌てて両手を後ろに隠すゴローさんの表情は、とても可愛らしかった。

焦ったような、恥じらうような。



そして、すでに俺は。

ゴローさんのジャムの色に染まった耳が、拒絶を表しているわけではないことを、知っている。




ゴローさんのことよりも、自分自身のことの方がよく知らなかったのかもしれない。


恋に、こんなに情熱的になれるなんて。


新しい俺で、明日からまた。
新しいゴローさんを思おう、と。
ひっそりと心に誓う。



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