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例えば、ふいに目と目が合った瞬間に。
例えば、ふと肩と肩とが触れ合った瞬間に。
何を、思うのか。
それは、俺とゴローさんでは決定的に違っていた。
返事を、と問う俺の言葉に、ゴローさんは戸惑うような表情を見せた。
「今じゃなきゃ、ダメかな…?」
「答えが出てるなら、きかせて欲しいです」
ゴローさんの瞳を見つめているのに、先程からちっとも目線が合わない。
交わらない視線に、イヤな予感が背筋を這う。
ゴローさんの言葉はないまま、じっとりと、例えようもない程長い時間が過ぎる。
本当は、ものの二、三分だったのだろう。
それでも俺には、今まで感じたどんな時間よりも、長く感じられた。
沈黙に耐えきれず、自ら口を開く。
「イエス、ノーはきかないので、」
寧ろきけば、明日から平然とここに来ることは無理に思えた。
「俺の告白がイヤだったか、イヤじゃなかったかだけ、きかせてもらえませんか?」
そう問う俺に、ゴローさんの視線がぱっと、こちらをとらえた。
「イヤだなんて…!そんなことは思わないよ。ただ…」
言葉の続かないゴローさんは、再び俺から目を逸らす。
ほんの少しだけ下唇を噛んで、次の言葉を探すゴローさん。
その表情は、今までに見たことのないものだった。
こんな時ですら、些細な喜びを隠せない俺は、やはりどうかしているのだろうか。
けれど今は逸らされた瞳が、ただただ辛い。
ゴローさん。
アナタは今、一体どんな気持ちで俺の前にいるのでしょうか。
左胸に走る、甘い痛みを紛らわせるように。
軽く拳を握って、ゴローさんの次の言葉を待った。
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