18
キッチンの横のロッカー室で、俺とトールさんは背中合わせに着替える
俺は私服から、制服に。
トールさんは制服から、私服に。
着替えていると、
「ねえ、ミツさあ」
トールさんが、のんびりとシャツのボタンを外しながら俺に問いかけてきた。
「はい」
「ゴローちゃんと、何かあった?」
「何か、って?」
「んー。例えば…」
早々と制服に着替え終えた俺は、タイをしながら、トールさんの言葉の続きを待つ。
「告白、した?」
俺とゴローさんの態度では、すぐに不自然に思われるだろうと覚悟してはいたが、俺が考えていた以上にトールさんは鋭かった。
「…まあ、そんな感じです」
取り繕ってもばれるなら、と。
俺は素直に答える。
「マジ、で?」
「マジで、です」
トールさんは一瞬、驚いたような表情になって、
「そっかぁ…」
噛みしめるように、しみじみと言った。
「からかわれるかと、思いました」
「からかわないよー。だってさ」
俺のタイに伸びる、ゴローさんと同じくらい繊細なトールさんの指先。
「ミツがどれだけ本気か、知ってるから」
伏せられた睫毛の向こうで、例えようもない色に滲むヘーゼル色のカラコンの瞳。
「ゴローちゃんにも、きっと伝わると思う」
ぽん、と手直しした俺のタイを軽くたたいて、トールさんは優しげに笑ってくれた。
「…ありがとうございます」
思えば俺の気持ちは、かなり始めの方からトールさんにバレていた。
そんな俺を、時には焦らせるように、時にはからかいながら、そして真面目に。
トールさんは俺を応援してくれていたのだ。
「上手くいくかは分からないですけど、でも」
タイをロッカーの扉の裏の小さな鏡で確認し、音を立てて閉めた。
「伝わってればいいな、と思います」
ゴローさんを想う、俺の気持ちが。
たとえ、どんな答えがゴローさんからかえってきたとしても。
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