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「おはようございます」
「おはよ。ゴローちゃーん、ミツ来たから俺、帰りまーす」
出勤して、カウンターに入り、キッチンへ。
トールさんがゴローさんに話しかけながら、俺に続く。
「カウンターよろしく。ゴローちゃん」
「うん。お疲れさま、トールくん」
帽子とネットをとりながら、ゴローさんがこちらへ歩いてくる。
俺はゴローさんの顔をまっすぐ見つめて、挨拶をした。
「おはようございます。ゴローさん」
「っ、おは、よう。ミツくん」
先日の俺の告白を思い出したのか、挨拶を返してくれたゴローさんの肩は、緊張しているように見えた。
挨拶のあとも、ゴローさんの瞳をじっと見つめて、反応を観察する。
戸惑うように視線を反らせ、俺とトールさんの横をさっさとすり抜けて、カウンターへと走っていくゴローさん。
俺はというと、ゴローさんの反応に嬉しさを抑えきれなくて、思わずニヤニヤしてしまった。
「ちょっと、ミツ。早くー」
「あ、すみません」
立ち止まったままの俺の背を、後ろでつっかえていたトールさんが、急かして押してくる。
「…?何、ニヤニヤして。気持ち悪いなー」
トールさんのイヤミだって、全然気にならない。
イチゴジャムのように真っ赤になった、ゴローさんの耳。
告白のあとも、今すれ違ったゴローさんのそれも同じ色をしていた。
意識してもらえるだけで、こんなにも嬉しいなんて思ってもみなかった。
片想いでじりじりとしていた日々が、もったいなかったな、と思う。
苦手なはずの甘いものが、胸に溶け出しているのに、こんなにも心ときめくのは。
恋の醍醐味を知ってしまったからだろうか。
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