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腕の中におさめたゴローさんの体は、思ったほど柔らかくはなかった。
女性とは違って少し骨っぽくはあるが、それでもその肩は細い。
すっぽりと俺の腕の中に包まれたゴローさんの白い調理服からは、ほのかに甘い香りした。
「〜っ…ミツ、くん?」
何が起きたのか理解できていないのか、不思議がる声音のゴローさん。
口を開いたせいでだろうか、鼻のすぐ近くで、くせのある焦茶の細い髪がふわふわとたゆたう。
「はい。…はい、ゴローさん」
返事をしたが、離したくはなくて、更に腕に力を込めた。
触れ合った部分から伝わってくるゴローさんの体温が、涙がこみ上げてくるほど、愛しい。
どうしようもない感情を、俺は素直にぶつけることしかできなかった。
「嬉しい、です。俺」
ゴローさんを抱きしめたまま、唇から自然と紡ぎ出されるままに言葉を続ける。
「ゴローさんに、そんな風に思ってもらえて」
腕の中から、くぐもった声で応えがあった。
「そんな風に、って。僕はただ、ミツくんに、僕の作ったケーキを食べて欲しいってだけで…」
「それが、嬉しいんです」
細い両肩に手のひらを添えて、ゴローさんの体を少しだけ離す。
「俺は、ゴローさんのことが好きだから」
「っ〜…ミツ、くん!?」
真剣な俺の動作に、冗談ではないと悟ったのか、戸惑いの表情を見せるゴローさん。
「そう、思ってもらえただけで、嬉しいんです」
冗談で済ませられたくはない。
俺は、至って真面目なのだから。
「好きです。ゴローさんのことが、ずっと…」
まっすぐに、想いを込めて見つめた先。
ゴローさんの瞳は、溶け出したチョコレートのように揺らいでいた。
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