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「ミツー!!待ってたよー。あのさ、お願いがあるんだけどぉ」

猫なで声でおねだりをする成人男子なんて、目の毒以外の何者でもないはずなのにトールさんだとそんな感じはしない。

「何ですか?」

「明日の夜、チョウコさんとこに急きょ団体さんの予約が入っちゃってさぁ。午前だけしか出れないんだけど、午後のシフトお願いできないかな?」

「春休みでヒマだから、別にいいですよ」

「サンキュ!よかったー。ミツならそう言ってくれると思った。お礼にチューしてやろっか?」

にひっと笑うトールさんもまた、魅力的だ。

めまぐるしく変わる美しい表情がすこしだけ羨ましい。

でも、

「ちゅーはいりませんから」

さすがに、そんなお礼は遠慮しておいた。


「春休みかぁ…懐かしい響きだなー」

ゴローさんも奥から顔を出して会話に加わる。

「春休みはないけど定休日はあるじゃん、ゴローちゃん」

「そうだねえ。…今度の休みは久しぶりに映画でも見に行こうかなー。学生みたく」


――もしかして、これはチャンスなのでは??


「ゴ、ろふっ!」

「「!?」」

「……すみません。舌かんだだけです。俺、とりあえず着替えてきます」

「あ、うん」

「いってら〜」

舌をかんだ事が恥ずかしく、急いでロッカールームへ向かった。

『ゴローさん、良かったら俺と映画に行きませんか?』


――何で、その一言を言うだけなのに噛むんだ…。


もどかしい気持ちで、ロッカールームの扉を勢い良く開けた。



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