ケーキショップ「Printemps」。

仏語で、読みは「プランタン」、日本語に訳すと「春」を指す。

俺が思うに名前の由来はケーキ職人であるゴローさんの名字、「春名」からだろう。

切れ者のオーナーが、ゴローさんを信頼している証。


「あ、ゴローちゃんこれおいしい!ちょっと酒強いけど、このモンブラン」

「ホント?秋だしモンブランが二種類くらいあってもいいかな、と思って。今出してるのはそんなにお酒効かせてないから、ちょっと強めにしてみたんだ」

今日は定休日を利用して、ゴローさんとトールさんと俺の3人でケーキの試食会。

甘いもの好きな二人はひょいひょいケーキをたいらげていく。

「ミツも少しは感想言いなよ」

トールさんはすでにもぐもぐと次のケーキを頬張っている。

「はい…」

「ミツくん、無理しなくていいよ。うちのケーキはどっちかっていうと甘いのが多いし」

そう。
うちの店のターゲットは主に女性客。
主婦と、近くにある女子大の学生達だ。

当然ターゲットに合わせてケーキの種類も変わる。


しかしせっかくゴローさんが作ってくれたケーキを、食べないわけにはいかない。

たとえ俺が、甘いものが苦手でも。

「俺、これも好きだな。梨のタルト。ほら、ミツも!」

「梨のタルトは自信作なんだー」

誇らしげに頬を緩めるゴローさん。

その微笑みは、春を思わせる。



ゴローさんの柔らかな微笑みが、いつか。
俺だけに向けられる日は来るのだろうか。


トールさんの食べかけのタルトを一口食べる。
甘酸っぱい梨の香りは、今の俺の気持ちに似ていた。



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