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来店を知らせるベルと共に、ドアの向こうから現れたのは、見覚えのある整った横顔だった。
「こんにちは」
「あ、いらっしゃいませ。…えと、チオウ、さん?」
俺が名前を呼んで挨拶をすると、白い頬を緩ませて、オーナーの恋人は笑う。
「覚えててくれたんだ。ありがとう。ミツくん、って呼んでもいいかな?」
少し近寄りがたい見た目の美しさとは裏腹に、チオウさんは人懐っこかった。
閉店直前なので、店はがらがら。
片付け作業をしていた俺は、それを中断して急いでショーケースの裏に入った。
「今からエイシさんの家に行くんです。おみやげに、と思って」
どれにしようかなぁ、とチオウさんが迷っているとキッチンからゴローさんが顔を出した。
「あ!!チオウくん、こんばんはー」
「こんばんは、ゴローさん。この前はごちそうさまでした」
「今からオーナーのとこ?」
「はい。この前の試食で頂いたケーキがおいしかったので、おみやげにしようと思って」
「ありがとうございます。何にしますか?」
仲良く話す2人に、俺は何となく疎外感を味わう。
けれど、ケーキを誉められたゴローさんの嬉しそうな笑顔に胸のあたりが温かくなった。
「うーんと、この前のモンブランとチョコレートケーキと、エイシさんには…」
チオウさんがそこで言葉を切って、ゴローさんの方を見つめながら微笑う。
「「チーズケーキ」」
ゴローさんとチオウさんの声が見事にシンクロして、2人はクスクスと声をたてて笑い始めた。
見つめ合って笑う2人に、またしてももやもやとした気持ちになりながら、俺は黙って3つのケーキを包んだ。
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