ケーキショップ「Printemps(プランタン)」。

店の主は童顔のケーキ職人。
スタッフはスマイル0円な金髪のウェイターと、表情固めの黒髪のウェイターの二人。

オープンして半年が経つが、売上は右肩上がりで、上々。


オーナーの視察が入っても、何ら不都合はない。

ないが、しかし。

「チオウ、これも上手いから食べてごらん」

「もう…そんなに食べさせて、僕を太らせる気ですか?」

「大丈夫。あとでベッドの上で、カロリー消費すればいいよ」

「エイシさん…っ!そういうこと、口に出さないでくださいってば…」

その視察が恋人連れだと、少々事情が違ってくる。
しかも、恋人は男。


ケーキの生クリームより激甘ラブラブな数々の二人の言動に、店のスタッフは当てられっぱなし。

閉店後の試食会で良かった、と心からほっとしていた。

「ゴローくん」

オーナーが、急に真面目な顔で童顔のケーキ職人に顔を向ける。

「はい」

「どれもとてもおいしいよ。この調子で頑張ってくれ」

「…はいっ!」

感無量といった感じの返事に頷き、オーナーは金髪のウェイターに目線を移す。

「トールも。よくやってくれてる。お前がいると華やかになるからいい」

「ふふっ。まあ、ね。エイシさんには負けるけどねー」

苦笑と共に、続いて頬の筋肉を痙攣させているウェイターへ。

「ミツ。君も。よくやってくれている。ああ、君はムリに笑おうとしなくていいよ」

「…はい?」

「笑顔はゴローくんとトールの担当だ。君は無愛想なくらいがちょうどいい。色々なキャラがいる方が、女性の心をくすぐるものだ」

「…はぁ」

何店舗もの店を成功させ、男の恋人とケーキの試食会に来る、三十過ぎのオーナーの考えている事は、まだまだ未熟な黒髪のウェイターにはよく理解できなかった。



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