「今日はお客さん、少なかったねぇ…」

閉店作業をしながら、ゴローさんがため息をつく。
悲しそうに、少し下がったその眉に、どうしようもないときめきが俺の胸を襲う。

――ああ、ヤバい。
少女漫画の主人公か俺は。

そんな自分の鼓動が、恥ずかしくもあり、どこか嬉しくもある。
少女漫画の主人公より、よほど乙女なのかもしれない。

「こういう日も、たまにはありますよ」

レジ閉め作業を終えて、釣銭の入った袋を手渡しながら言うと、ゴローさんはそれを受け取り、笑う。

「そーだよね」

チャリ、と袋をならしながら、ゴローさんは続けた。

「ミツくん、好きなの持って帰っていいよ」

ゴローさんの指が売れ残ってしまったケーキを詰めた箱を差す。

「えっと、あんなには、ムリです。すみません」

「だよねぇ。いくらケーキが好きでも、僕も三食続けてケーキはちょっとねー」

――ちょっと、待て。
今、この人何て言った?

「トールくんのお店に持って行ってあげようかな。チョウコさんもいるだろうし」

「…ゴローさん、今、何て言いました?」

「あれ?ミツくんチョウコさん、知らない?トールくんが働いてる夜のお店のオーナーさん」

「や、そっちじゃなくて」

「?」

小動物のように、首を傾げるゴローさん。

――何て、愛らしい。
って今はそんな事は置いといて。

「ケーキ、晩飯にするんですか?」

「え?うん」

当然の事のように、何を頷いてるんだろうかこの人は。

――いや、可愛いけども。

「〜っ、ケーキは飯にはなりません!」





その後、俺とゴローさんは二人で晩飯を食いに行った。



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