ゴローさんの髪は、くせっ毛だ。

作業中はネットをかぶって、さらに白い帽子をかぶってケーキを作る。

今、ゴローさんは俺の目の前でそれをとって、犬か猫のように軽く頭を振っていた。

ぷるぷると、焦げ茶の髪もそれに合わせて揺れる。

「あ、ミツくんお疲れさま」

「…お疲れ、さまです」

振り向いたゴローさんに、ドキリとして一瞬返事が遅れてしまった。

ぴんぴんといろいろな方向にはねる、俺の目線の下にあるゴローさんの髪。

――ああ。可愛い、なぁ。

甘い物は得意ではないのに、ゴローさんからほのかに香る甘い香りは俺の鼻に快い。

「…?ミツくん、どう、したの?」

ゴローさんに名前を呼ばれて、ふと我に帰る。

――何やってんだ、俺。

無意識に、ゴローさんの髪に触れてしまっていた。

「あ、いや。ホコリが」

ケホンとわざと咳をしながら、ありきたりな誤魔化しを口にする。
けれど、ゴローさんは簡単に誤魔化されてしまう。

「そー?ありがと」

にこりと笑って、粉類で汚れた作業着を着替え始めた。
そんなゴローさんに背を向けて、俺もロッカーの鍵を開ける。

エプロンを外して、軽くはたく。
着替えている間中、背後のゴローさんの気配が気になって仕方がなかった。



ふわふわとしたゴローさんのくせっ毛の感触が、いつまでも指に残った。



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