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スポンジに生クリームを塗るゴローさんの手を、この上なくいやらしいと感じてしまうのは、俺だけだろうか。
白魚のような指でやさしくスポンジを扱う動作に、俺はそのスポンジになりたいとさえ思う。
あの指で、触れられたい。
真一文字に結ばれたゴローさんの唇は小さく、赤い。
まるで、これからスポンジの上に飾られる、みずみずしい苺のように。
イートインスペースの洒落たテーブルを拭き上げる俺の手は、ゴローさんを見つめるといつも知らぬ間に止まってしまう。
白いクリーム絨毯の上に、宝石のように煌めく苺をのせて、出来上がったショートケーキ。
作業台から一歩下がって、そのワンホールを愛おしそうに眺めるゴローさん。
作業中の真剣な顔つきが、ふにゃっと崩れる瞬間だ。
「…ん。今日も、いい出来」
普段とも作業中のものとも違う、一瞬の表情。
そのふにゃふにゃ顔にときめいてしまう、自分がコワイ。
「ミツくん、これで最後だからショーケースに…」
俺の名前を呼んで顔を上げたゴローさんと、ゴローさんを見つめていた俺の、眼と眼がばっちりと合う。
――や、やばい。見てたの気づかれた。
慌てて目線を下げ、テーブルへ。
――って、いくら何でもそれは不自然すぎるだろ。
自分の行動に突っ込みを入れて、改めてゴローさんを見返す。
見つめたその先。
ゴローさんの表情が、出来上がったばかりのショートケーキを見つめる瞬間の様に、ふにゃっと和らいだ気がした。
恋する俺の心が見せた、目の錯覚でない事を祈りたい。
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