解いて差し上げましょう。
その、縛[いましめ]を。



無機質なステンレスの棚と、雑多な段ボール箱の並ぶ中で、俺は背徳に手を染めようとしている。

半ば強引に連れ込んだ相手は、普段のクールな印象からは想像もつかない、怯えた眼差し。

その表情は、さながら小動物のようだ。

両手を抑えて、身動きが取れないようにステンレスの棚に押しつけると、平静を装ってこちらを睨みつけてくる。

「何を、する気だ?」

「・・・おそらく、主任が想像していることよりも、もっとすごい事をします」

余裕たっぷりの笑顔で、青ざめた顔を見下ろす。
驚愕の表情は、今の俺には逆効果だ。

じたばたと己の身の安全を図ろうとする上司に言い放った。

「主任。約束、しましたよね?」

真面目な彼が、この一言で何も言えなくなる事を俺は知っている。

「納期を守ってくれたら、何でもするって」

無理な期限を提示されて俺が死ぬ気で働いたのは、今この瞬間の為。

「こんな、つもりじゃ・・・!」

「俺がこういう事をするなんて、思ってもみなかったですか?」

主任の脚を割って、自分の腿を滑り込ませる。
細い眉が引き絞られるのを間近で見つめて、俺の瞳から主任の顔までの距離がほんの少ししかないことを確かめさせた。

「なにも、こんな所じゃなくても・・・」

「こんな所だから、興奮するんじゃないですか。普段は皆が仕事をしている場所で俺に、どんな事をされるのか想像して怯えている主任の顔、最高に素敵です」

「っ、ーー。君は、変態かっ」

「そうですね。どちらかというと」

否定しなかった俺にますます驚愕して、主任は言葉を失った。



この人の今までの価値観を粉々に打ち砕いてやろうと誓って、紺色のネクタイに手を掛ける。

衣擦れの音は、はじまりの合図。






ネクタイ



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